この記事はShiftallのプロジェクトに関わるメンバーが日替わりでブログを更新していくアドベントカレンダー企画の11日目です。その他の記事はこちらのリンクからご覧下さい。
アドベントカレンダー2018
https://blog.shiftall.net/ja/archives/tag/adventcalendar2018/
こんにちは。FUTURE LIFE FACTORY(以下FLF)の姜 花瑛(かん ふぁよん)です。わたしが企画・デザインを担当しているWEAR SPACEの開発をShiftallと進めているご縁で、Shiftallのアドベントカレンダーに参加させていただきます。
FUTURE LIFE FACTORYについて
FLFは、パナソニック株式会社アプライアンス社デザインセンターにおいて、先行開発に特化して活動するデザインスタジオです。「これからの豊かなくらしとは何か」を問い直し、モノ/コト問わず具現化しています。
FLFのアプローチは、ユーザーの課題解決や、テクノロジーを中心に置いた従来の商品開発だけではなく、未来洞察を元に見据えた、人々の価値観の変化や社会課題を起点としたクリエイションが大きな特徴です。従来の常識にとらわれない発想で、新規事業の種や未来のくらしのビジョンを世に問いかけています。
FUTURE LIFE FACTORY – Panasonic
https://panasonic.co.jp/design/flf/
「WEAR SPACE」について
WEAR SPACEはおかげさまで、本日クラウドファンディング最終日。多くの方のご支援とご協力があり、無事に目標金額を達成しました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。ほんとうにありがとうございました。クラウドファンディングが終われば、いよいよ商品開発です。気を引き締めてがんばりますので、引き続きよろしくお願いします!
WEAR SPACE 公式サイト – 集中力を高めるウェアラブル端末
https://wearspace.info/
今回、わたしがどんなことを書けるかなーと悩みましたが、WEAR SPACEの活動を通して、あまりメディアやイベントでお話できていない、最近個人的に感じていることをつらつら言葉にしてみようかと思います。
メンバーの気づきから生まれたWEAR SPACEのアイデア
WEAR SPACEが生まれたのは、2017年5月。もともとは、FLFメンバーの個人的なお困りごとから出てきたアイデアです。新幹線移動が多かったメンバーが、ノイキャンのヘッドホンを音楽をかけずに使っているうちに、その体験がパーソナル空間を作り出しているということに気づきを得、そこから、パーソナル空間をどこにでも作り出すというコンセプトと、空間をまとうためのデザインが生まれました。
WEAR SPACEは、テクノロジーとしては特段新しい技術を使っているわけではなく、ノイズキャンセリングのヘッドホンに、パーティションを組み合わせただけのプロダクトです。ヘッドホンのテクノロジーを「音楽を聴く」という価値から、「パーソナル空間をつくる」という価値に転換したことがWEAR SPACEのユニークなポイントです。しかし、既存の価値から離れてしまったがゆえに、パナソニック社内での商品化は難しいという判断を受けました。
これまでわたしが携わってきた商品開発や先行開発で発売に至らなかったプロジェクトは、そのどれもが、受容性がない、もしくはわからないという判断をされていました。もちろん、アイデアが甘いものや、ビジネスとしてリスクが高すぎるようなものもありましたが、一方で、すでに価値が証明されている商品でないと判断することが難しい、という側面も事実としてあると感じています。
商品カテゴリーにもよりますが、新しい商品を作り出すときには、既存ユーザーの要望や業界トレンド等から仮説を立てコンセプト案を出し、定性調査で仮説を分析しコンセプトを明確化し、定量調査でコンセプトの受容性を確認、その結果をもって企画会議で審議、承認されるという長く大変な労力をかけて行います。
この手法は、時間がかかる上に他からの影響を受けやすく(例えば、既存市場や他社動向で提案がひっくりかえるとか)、また、これだけ確実性が高そうな手法であるのにも関わらず、必ずしもこの手法で開発された商品が売れるとは限りません。
そして売れなかった商品は、コンセプトも機能もデザインもターゲットユーザーも売りかたもすべてが失敗とみなされてタブー視され、日の目をみることができなくなるのです。
既存の枠組みに捉われず、さまざまなアイデアを試せる組織として生まれたFLF
何度もこのような経験をするうちに、売れるかどうかよくわからない商品を生み出すためにこのような大変な労力をかけるよりも、もう少し違うやり方で、アイデアの受容性を判断できるのではないか? そのようなことを感じていた時に、FLFが立ち上がりました。
FLF設立の背景について語ると長くなってしまうので、省略させていただきますが、FLFは、あえて事業部と紐づけを切ることで、従来の方法や既存の枠組みに捉われず、さまざまなアイデアやプロセスを試せる組織として生まれました。
昨年FLFが出した6つのアイデアを評価する方法には、いわゆる定性調査や定量調査を使わないことに決めました。事業部ができない、やったことのない方法で評価できないか? それぞれのアイデアにふさわしいであろうプロセスを試行錯誤しながら考え、実行していきました。
WEAR SPACEでは、国際的なデザイン賞「reddotデザインコンセプト部門」への応募とbest of the bestの受賞、ファッションブランド「ANREALAGE」展覧会への出品、SXSW 2018への出展など、オープンに活動を推進し、それぞれで高い評価を得た結果、WEAR SPACEには事業性がありそうだという実感はあったものの、やはりそれだけでは、貴重なヒトモノカネを投資してもらうには至らず、ならばというわけで、今回のクラウドファンディングを行うことになりました。
少し話が逸れますが、WEAR SPACEのようなガジェット系のクラウドファンディング(国内)の多くが、目標金額を100〜300万円に設定して行っている中、WEAR SPACEの「All or Nothingで1500万円を目標金額する」という条件については、 「少し無理があるのではないか?せめて1000万円くらいに設定して、パナソニックの最初の事例として成功を演出するなど、戦略が必要なのではないか?」という意見ももらいました。
しかし、どのようにしてWEAR SPACEの受容性を見極めることができるかというプロセスチャレンジとして大きな命題がある今回の活動において、300万円でクラウドファンディングを達成したとしても、社内での評価は得られません。WEAR SPACEのクラウドファンディングにおいては、1500万円はマストの目標でした。
クラウドファンディングで得た反響を見ると、WEAR SPACEは非常に高いポテンシャルを持っていることがわかります。勘のいい方だと、このコンセプトはものすごく汎用性が高いものだとすぐにわかっていただけるようで、いくらでもシーンのアイデアが生まれます。働く場だけでなく、ブラインドテイスティング、発達障害の方への生活支援、受験生の自習、映画やアート鑑賞、瞑想、リラックス……、等々。
時代を自分事として捉える「肌感覚」
今振り返ると、仮説を立て定性調査という手法では、このような可能性の発見や創造ができず、その商品の提供価値や可能性を自ら閉ざしていた可能性もあったのかもしれない、と感じます。調査をしているからユーザーに聞いたつもりになっていたけれど、聞いている人は、本当にその商品のユーザーだったのか 市場性がないと判断していたのは、既存事業の枠組みでしか考えられなかったからではないか。そのアイデアにはもっと別の可能性もあったのではないか。 WEAR SPACEの開発を通して、そんなことを考えるようになりました。
わたしの尊敬するクリエイターが、「(マスを考えるときに)世の中を観察したり、アンテナを張って生活するのではなく、現代の中で生活している一人として自分の内面を掘り下げればマスにたどりつくと思っている」というような言葉を話していて、とても共感したことがあります。
この、時代を自分事として捉える肌感覚って、デザイナーには自然に身についているのではないか、と思うのです。昨年の今頃は、WEAR SPACEがここまで多くの価値や多様な捉えかたができるコンセプトだとは、メンバーの誰もが予想していませんでした。ただ、現代社会を生きる一人の肌感覚として、このコンセプトの魅力や強さに惹かれ、社会に問いたいと活動を推進してきたのです。
個人の情報や空間がどんどんオープンになっていくことで、便利で快適なコミュニケーションが取れる現代社会では、必ずしもいいことばかりではなく、軋轢も生まれているー。WEAR SPACEのコンセプトが切り込んだ時代の変化の本質に、知らぬうちに共感していたのだと思います。
働く場以外の想定していなかった場面で、「WEAR SPACEは、自分のために開発されたものだと思った」と、言っていただくことが多々あるのですが、WEAR SPACEの本質的な提供価値が時代をうまく捉えていたからこそ、想定していなかった全然別のユーザーにも刺さるコンセプトになっているのではないでしょうか。
ユーザーの行動や思考を論理的に分析して価値を提案するUXデザインやサービスデザインが、デザイナー以外の人にも手法として浸透してきている昨今、自分のデザインとか、わたしのデザイナーとしての強みって何だろう、とよく考えるのですが、もしかしたら、この肌感覚なのかもな、と最近思っています。
さすがに「デザイナーの勘を信じてください」と声を大にして言えるわけではないので、WEAR SPACEや他のプロジェクトの活動を通して、このなんともいえない肌感覚をどう信じて、どう伝えるか、どう証明するか、自分なりに考えてみたいなーと考えている今日この頃です。
まずは、WEAR SPACEをこのプロジェクトでしかできない方法で世に問います。応援よろしくお願いします!!